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40年ぶりに利用客数の増加を実現した十勝バスの挑戦! V字回復のキーワードは「交通の見える化」

1 乗ってもらえない理由は「不便」ではなく「不安」

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利用客の減少によって苦境に立たされる地方の公共交通機関。少子化・過疎化が進む現代において「これは避けることができない現実」と、思い込んでいる人も多い中、そのような考えを覆すような動きが北の大地で起こりつつあります。

十勝バス 本社外観

1926年の創業以来、十勝管内にて路線バス・観光バスなどの事業を展開している「十勝バス」。地元の人々からは「カチバス」の愛称で親しまれ、最近では「幸福(しあわせ)の黄色いバス」と言われ始めていますが、その年間延べ利用者数は、1969年の2,300万人をピークに年々減り続け、2010年には約400万人にまで落ち込むという状況が続いていました。しかし、2011年にその現象に歯止めをかけ、全国の地方バス路線としては初めて利用客数を増加させ、その後も、利用者数は前年比5%の増加を毎年続け、業績のV字回復を実現しています。

本記事では、地方創生の代名詞ともなりつつある同社の取り組みとこれからの展開について、十勝バス 代表取締役社長である野村文吾氏の声とともに紹介します。

「カチバス」の愛称で親しまれている十勝バス

乗ってもらえない理由は「不便」ではなく「不安」

かつて、利用客数の減少によって経営危機にまで陥った十勝バス。その再生のために同社が行ったこと、それがバスの停留所がある近隣の世帯へのヒアリングでした。

「利用客へのアンケートは、多くの企業でも行われています。しかし、こうしたアンケートは“利用客”の顧客満足度を上げるためのもので、当然ですが“利用していない人”の回答は得られません。そのため、『なぜ利用してもらえないのか』という回答を得るためには、“利用していない人”に尋ねなくてはわからないのです」(野村氏)

十勝バス 代表取締役社長 野村文吾氏

そして、バス沿線の住宅を戸別訪問していくうちに意外なことが判明しました。それは、バスを利用しない人たちの多くは、「不便だから利用しない」のではなく「不安だから利用しない」という事実でした。例えば、料金は前払いなのか後払いなのか、前方から乗るのか後方から乗るのか、整理券を取らなければいけないのか、目的地までの料金はいくらかかるのか、そもそも自分の家の前にあるバス停からはどこに行けるのか、そのような「わからないことへの不安」がバスの利用から足を遠ざけている最大の理由だったのです。

そこで十勝バスでは、バスの乗り方を解説したチラシを作成して、戸別訪問の際に手渡しながら説明してまわりました。さらには、そのバスの乗り方を記載した「おびひろバスマッ プ」を作成。当時の帯広ほぼ全世帯にあたる8万世帯に配布し、今ではバスの乗り方に加え行き先、料金や割引サービスなどをまとめた冊子を作成して8万世帯に配布しています。

また、ヒアリングの結果に基づいて時刻表を調整したり、新たなサービスを提供したりするなど、地道な改革を進め、その結果、40年ぶりの利用客増加を実現しました。この十勝バスの取り組みは「幸福の黄色いバスが達成した奇跡」とまで称され、現在に至るまで、さまざまなメディアにも紹介されています。

「交通の見える化」でインバウンドの獲得を目指す

現在、十勝バスでは新たな取り組みとして、「ICTの有効活用」による利用客の不安解消を図っています。この取り組みは、十勝に住む人たちの利便性を上げるだけではなく、はじめて十勝に来訪した観光客やビジネスマンにも、バスを利用してもらうためのものでもあります。

十勝には、さまざまな観光名所がありますが、旅行会社が提供している観光プランの多くは、レンタカーなどの自動車利用を前提としています。

「もちろん、レンタカーでなければ楽しめないケースもあります。でも一方で、レンタカーだと十分に楽しめないケースもあります。例えば、十勝はワインが有名ですがレンタカーだとドライバーの方は楽しめませんよね? それに、夏場はまだしも冬になって雪が降った場合の運転は、道外の方にはとてもおすすめできません。私だって、雪の日は怖くて運転したくないくらいです」(野村氏)

近年では、北海道にも海外からの観光客が増えつつあります。しかし、彼らの立場に立って考えれば、交通ルールが異なる海外での運転はかなりのハードルがあります。また、国際免許証を持っていない観光客も多く、そもそもレンタカーを借りること自体ができません。その結果、北海道に来ても札幌や函館の観光で完結してしまっているケースが非常に多いそうです。

「海外からの観光客を招きインバウンドを獲得するためには、公共交通機関がしっかり見えていないとできないのです」と野村氏は強く語ります。

十勝に来訪した観光客やビジネスマンに利用してもらうにはどうすればよいのか。それは、かつて得たノウハウと同様、「乗ることに対する不安を解消してあげる」こと。そしてそのために野村氏が考えた手段が、経路案内アプリ「もくいく」とバスロケーションアプリ「PINA」なのです。

「現在では、都市部であっても経路案内サービスがないと目的地にたどり着くのは大変です。経路案内サービスがあれば、『いつ、どこから、何に、いくらで乗ればいいのか』といった不安が解消されます。ただその場合、限られた会社や交通機関でしか検索できないのであれば、利便性は大きく下がります。本気でインバウンドを意識するのなら、自分たちだけじゃなく他のバス会社や列車、そしてタクシーやレンタカー会社も巻き込んで行わなければなりません」(野村氏)

このような野村氏の考えに、北海道大学 情報科学研究科、そして交通系課題解決サービスを提供するユニ・トランドの代表取締役社長 高野元氏が共感し、産学協同のプロジェクトとして誕生したものが「もくいく」をはじめとする目的地検索クラウドシステムなのです。

「もくいく」は、2014年4月にブラウザ版が、2015年3月にスマートフォン向けのアプリ版がリリース。その後、徐々にユーザーを増やし、利用客増加の一翼を担う存在となっています。また検索できる路線バスも十勝バスだけではなく、本来であれば競合である他の路線バス会社も複数登録されています。

もくいくPC版

全国で「交通の見える化」実現を目指して

野村氏に今後の目標を尋ねたところ「このシステムを日本全国に広げることです」と力強く明言。

「利用客を増やすためには『交通の見える化』が絶対に必要です。見える化で不安が解消されれば、路線バスも移動手段として選択していただけるのです。私たちは決して豊富な資金があったわけではありません。特に開発面においては、ユニ・トランドさんの協力をいただきつつ、一緒に創意工夫をしながら、ここまでやってきました。ですから都市部はもちろん、他の地方都市の公共交通機関だってできるはずなのです。ぜひ、多くの公共交通機関の皆さんに交通の見える化を実現していただきたい。そのためにできることであれば、私はできる限り協力させていただきます」(野村氏)

地方創生には、公共交通機関の活性化が重要です。十勝バスの取り組みが日本全国に広がれば、それは大きな変化となって日本を活性化していくと思われます。さらに野村氏によると、アジアを中心とした事業の横展開や、ユニ・トランドとの協業におけるビッグデータ、AIの活用を検討されているそうです。今後も十勝バスの取り組みから目が離せません。

本稿で紹介しているユニ・トランドのHPはこちら
http://www.unitrand.co.jp/
十勝バス「もくいく」の詳細はこちら
http://www.tokachibus.jp/mokuiku/
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目次
(1) 乗ってもらえない理由は「不便」ではなく「不安」
(2) 十勝バスの取り組みを実体験! 経路案内アプリ「もくいく」
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